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新市場基本コンセプト懇談会報告書 序文

序文 新市場に期待すること 座長 上原征彦

新市場基本コンセプト懇談会(以下「懇談会」と略す)の報告書が、委員および事務局等の関係者のご尽力によって、このような形でとりまとめられたことに、まず厚く御礼を申し上げたい。「懇談会」では、21世紀に向けて生鮮流通と卸売市場そのものがどう変わっていくかというマクロ的観点と、築地市場の現在の問題点は何か、それをどう解決すべきかというミクロ的観点との双方から、言い換えれば未来・理想と現在・現実という2つの目線から新市場の方向性が探られたと理解している。このような2つの目線からの作業には多大な労力が必要とされ、短期間で明確な結論が出るものではない。「懇談会」では、約半年間という期間制約を考慮し、明確な1つの結論を出すというよりも、今後どこから議論をすべきかという出発点の構築に作業の重点が置かれた。このことを踏まえ、「懇談会」では様々な意見が提出され、かつ、活発な議論が展開され、その成果が本報告書としてとりまとめられたことは相応の評価が与えられるであろう。

ここで、「懇談会」の座長を務めた者として新市場に何を期待するかを述べてみたい。

我が国において卸売市場は公的機関として位置づけられているが、とりわけ中央卸売市場には公共的役割が強く課せられている。新市場も、中央卸売市場として位置づけられる限り、その公共的役割を積極的に発揮していかねばならない。ここで重要なことは、公的機関としての卸売市場が果たすべき公共的役割とは何かを明確に意識し、それに向けてのシステムを整えていく必要がある、ということだ。そのような役割として、少なくとも次の2つを確認しておかねばなるまい。

1つは、生鮮品が日本の国民にとってきわめて重要な食材となっていること、およびその生産が自然条件に左右せざるを得ないことを踏まえ、現在どこでどんなものがどれほど生産されているかを消費者・需要家等に正しく知らせるべく、これを反映した取引が行なわれなければならない、ということだ。ここでは主として2つの機能の充実が要請される。第1に産地等の出荷意向を正しく反映した取引機能を整備すること、第2に産地情報・商品情報・価格情報などを消費者・需要家等の要求に応じて直ちに提供できる情報システムを構築することの2つである。前者については「受託拒否の禁止」など既に仕組もあり、今後この思想をどう生かすかが課題となるが、後者についてはこれから取り組むべきことが多い。おそらくインターネットを駆使した情報システムの構築が必須となるであろう。とりわけ新市場が世界でも最大の生鮮市場であり続けようとするならば、こうした情報機能で卓越することが強く望まれる。

いま1つ、公共的役割として最も重要と思われるのが「食の安全の確保」である。卸売市場は、民間の流通機関よりも卓越した「食の安全を確保する機能」を保有せねばならず、これこそが公的機関として最も期待される機能である、といって過言ではない。最大の取り扱い量を誇る新市場にあってはこの機能の発揮はきわめて重大である。ここでいう「食の安全の確保」は、病原菌の参入防止等のための衛生管理ということに止まらず、どんなものが健康によくないかを判断する検査機能等を確立し、危険性有りと認めたものについては入荷を拒否する、といった積極的な方向を目指すべきであろう。

次に、卸売市場は公的機関ではあるものの、その業務内容からみて、卸売市場を構成する各々の機関が民間の流通機関との競争に晒されている、ということに注意し、これへの対処を急がねばならない。公的機関だから競争から守られねばならない、という論理はほとんど通じなくなってきている。公的機関であれ民間機関であれ、競争力のある機関が生き伸びるのであり、行政等の公的介入もこのことを無視することはできなくなってきている。それ故、新市場は何よりもまず競争力の強化という観点から様々な戦略の展開が図られねばならない。このことについては、さしあたって、次の点が検討されねばならないであろう。

  • いまのところ市場外流通としてそのシェアが拡大しつつあるスーパー・チェーンや外食チェーン等への生鮮供給をどう効果的・効率的に取り込んでいくか
  • 中小専業店や中小料飲店等の活性化を図り、それによって卸売市場の差別性を確立するためにどのようなリテール・サポート戦略を展開すればよいか
  • 大口消費者、中小専業店、中小料飲店などの卸売市場への集客を高めるために有効なキャッシュ・アンド・キャリー型品揃え空間をどう構築するか
  • インターネット等を活用する無店舗販売の台頭にどう対処すべきか

上記のごとき観点から競争力を強化しようとするならば、現在の卸売市場の制度等を大きく変革せねばならぬかも知れない。この変革に果敢に挑戦できるかどうかが新市場の成否を決めることになるであろう。

最後に、新市場に固有な資源を徹底的に生かすことが望まれる。こうした資源として少なくとも次の2つを想定すべきである。

1つは、新市場は既に述べたように世界最大の卸売市場である。これを活かしグローバルな色彩を強調することが必要とされる。どの面でグローバル化するか。おそらく、世界の生鮮品に関する最大の情報拠点として位置づけるのが、さしあたっての方向ではないかと思われる。新市場にあっても、築地市場と同様に、世界の主要な生鮮取り扱い機関が、新市場の取引状況についての情報を集めようとするのは間違いないであろう。このことを基盤にしつつ、新市場が世界各地の主要市場を情報ネットワーク化して、世界の生鮮情報を集約化し、関係者の要求に応じていつでも必要な情報を提供できるシステムを構築すべきであろう。新市場における情報化は、1つには、こうしたグローバル化と結びつけることが期待される。

いま1つは、新市場は、その規模と機能からみて、様々な人々が多く集まる1つの街として位置づけざるを得なくなるであろう。このことは、現在の築地市場をみても明らかであり、それが新市場の固有の資源となることは間違いないであろう。それ故、新市場は街づくりの中に位置づけられねばならない。こうした方向を進める契機として、場外と場内との物理的境界をフュージョン化し、そこにユニークな専門店とキャッシュ・アンド・キャリー店舗とで構成される小売商業空間を計画することが考えられる。

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